はじめに
第9話では、七瀬が調子を取り戻し、ストーカー問題へ自ら向き合い始めるターニングポイントのような回だった。
また、千歳の初恋エピソードが語られ、明日風との関係性も見えてきた回でもあった。
ここからは、今回の話で違和感を持ったシーンや、印象に残ったシーンを中心に、登場人物たちの心情や過去を整理しながら考察していく。
千歳の家で
前回の七瀬と公園での後、結局千歳の家にきたらしい。
終始無言の二人。七瀬が千歳を誘い、キスをしようとした時、
「それでいいんだな、七瀬悠月」
七瀬を押し倒す
七瀬は、泣きながら目を瞑り弱く抵抗する
「それが七瀬悠月か?笑わせんなよダッセェな!」
「そんなにあの男が怖いか?相手に舐められたまま、思考停止で本当にいいのか。
散々美しい生き様見せつけておいて、がっかりさせてくれるなよ。なぁ!七瀬悠月はその程度の女なのかって聞いてんだよ!」
このシーンは千歳の本心のように感じた。
七瀬のことを七瀬悠月と呼んでいることからも、おそらくこれは、七瀬が演じている理想の七瀬悠月に向けた言葉だろう。
「散々美しい生き様見せつけておいて」と言う部分は、千歳の美学の「美しく生きる」と言う部分と重なる。
そこから、千歳は”理想の七瀬悠月”を、自分の理想の生き様と重ねて見ていたとも捉えられる。
しかし、今回の件で、”理想の七瀬悠月”が、恐怖や不安で崩れてしまう。
だからこそ、自分のことのように心を動かされ、もし今の七瀬がそのままなら、がっかりしてしまうと言うことだろう。
「七瀬悠月はその程度の女なのかって聞いてんだよ!」というのは、七瀬悠月は、恐怖と不安でいなくなるような弱い存在なのか?と聞いているのだと解釈した。
「ざっけんなぁ!」
七瀬の金てき
「4割程度の力で十分だっていうたやんけ」
ここでまさかの第5話で、千歳が言っていたことの伏線回収。
ちなみに第5話ではこんなことを言っていた。
「覚えておくといい。
押し並べて男というものは、股間をほんの4割程度の力で蹴り上げるだけで停止するという、致命的な設計ミスを抱えている。」
「そのなの?朔も?」
「いいか?試すなよ?絶対試すなよ?」
まさか金的の相手が千歳だったとは。
綺麗にフラグを回収した。
七瀬が落ち着いてから
「その気があるなら話していいぞ」
「暴力がね、怖いの」
(予想していた通りだ、だが、暴力そのものが怖いのか、そこから派生する性的なあれこれが怖いのか判断しかねていた)
ここで千歳は、七瀬が暴力を異常に怖がっていると気づいていたことがわかる。
第7話の柳下の初登場のシーンで、千歳が(そうだったな。今じゃないし、こうじゃない。)と言い暴力を控えたのは、
そのことに気づいた上で、七瀬の前では暴力を避けようと考えていたのかもしれない。
七瀬の過去
「中学2年生の頃、この容姿のせいで人並み以上に嫌な思いを経験をしてきた私は、
それなりに賢くズルい女の子に成長していたと思う。
男女問わずに程よく愛想を振りまいて、だけど踏み込まれすぎない程度には線を引き、ちゃんと妬むきも怒らない女の子を演じていた。
そんな時、柳下先輩が私に興味を持っていると聞いた。
先輩は悪い有名人だけど、実は家柄も良くて元々は人気者だったらしい。
何人か憧れている女の子もいた。ある日呼び出されて、正直怖かったけど、口先で交わしてうまくその場を去れると思ってた。」
七瀬は中学生の頃からすでに、七瀬悠月を演じていたらしい。
「嫌な思い」とは、恋愛的な逆恨みやストーカーなどだろうか。
しかし、当時の七瀬悠月はまだ幼かったのだろう。
「何人か憧れている女の子もいた」と言っていることから、自分がモテていることに浮かれている部分もあったのかもしれない。
(誰だって、生きていれば、忘れられないぐらい嫌な出来事はある。
だけど悠月は、それをトラウマって言葉でラッピングして、目を背けなかった。
ちゃんと七瀬悠月としてここにいることが、とても尊いことのように思えたのだ。)
もし、トラウマという言葉にラッピングしていたら、それを避けるため、七瀬は七瀬悠月を演じ続けることはしなかっただろう。
しかし、目を背けず、自分の弱点を理解した上でそれを回避する努力をしていた七瀬悠月は、とても勇気が必要なことをやり遂げ、今ここに存在している。
だからこそそれが、「尊いことのように思えた」のではないだろうか。
「それにしても、さっきのはいくらなんでもだよ」
「悪い、強引すぎるやり方だった自覚はある」
「思考を止めるなってことだよね。
お祭りの時、朔がお手本見せてくれたもん。たとえ力で敵わなくても、頭を真っ白にしなければできることはあるって」
「確かに暴力は恐ろしいが、痛みに心まで支配されないでくれってことだ」
これは、第7話で柳下に絡まれた時、千歳がプライドを捨て、周りの人に聞こえるように叫んだ時のことだろう。
あの時の千歳は、頭を真っ白にして相手に殴りかかろうとしていた自分を押さえ、あの状況で、七瀬も自分も守れる最善の手を打っていた。
「もっと早く。もっとうまくやれたらよかったんだけどな。」
「ううん。私がやっと、助けてって言ったからだもんね。
ありがとう。私のヒーロー」
前回の最後に七瀬は千歳に助けてといった。
しかし、それは七瀬が千歳の家に上がり込むための口実のようなものだっただろう。
実際に、千歳の家についた後、七瀬は千歳とキスをしようとしていた。
しかし、千歳は状況に流されることなく、何も考えられなくなっていた七瀬に声を届け、
理想の七瀬悠月を取り戻させることで、本当の意味で七瀬を助けた。
もしあの時、七瀬の「助けて」を無視して家にあげていなければ、千歳の「美しく生きる」と言う美学に反してしまうだろう。
しかし、七瀬がしようとしていたことを流れのままにしてしまっても、やはり美学に反してしまう。
だからこそ、あの場で七瀬の調子を取り戻すことだけが、唯一の千歳が美学を貫ける手段だったのかもしれない。
「これは悠月の問題だ。自分で一歩踏み出さなければ、なんの意味もない。
また不運が降りかかった時、俺が隣に入れるとも限らない。
けど悠月は自らの意思で俺を頼り、そして前を向いた。
ここから先は、俺たちの問題だ。」
「これは悠月の問題だ」と言っているのは、七瀬悠月を取り戻す前の七瀬のことだろう。
七瀬が、理想の七瀬悠月を演じ続けるのか、諦めるのか。
その判断をするのは七瀬自身の、「七瀬の問題」だろう。
「自分で一歩踏み出さなければ、なんの意味もない。」と言うのは、
千歳が全て解決してしまっては、同じことが起きたとき、千歳がいないと何もできなくなってしまうと言うことだろう。
しかし、理想の七瀬悠月を取り戻して、千歳を頼った七瀬は、
千歳に全て丸投げするのではなく、自分で考えた上で、千歳を頼っている。
だからこそ、成長することができる。
そして、千歳を自分の意思で頼った今、それは七瀬と千歳が解決すべき問題となり、「俺たちの問題」になったのという意味ではないだろうか。
夜、二人で寝転びながら
「あのさ、千歳って好きな人いるの」
「2度目だな、その質問」
「私はね男の人を本気で好きになったこと、ないと思う。
言い寄られることは多かったけど、私が好きなんじゃなくて、七瀬悠月っていうパッケージが好きなんだって、気づいた途端に
どうでも良くなった。みんな自分お綺麗な夢だけを詰め込んだ宝箱を求めているの」
やはり七瀬は、恋をしたことがないらしい。
だからこそ、今自分が千歳に抱いている感情がなんなのかわからず、前回の夕湖に攻められているシーンで
「朔じゃなきゃ駄目だった?」と言う問いに「わからない」と答えたのだろう。
「言い寄られることは多かったけど、私が好きなんじゃなくて、七瀬悠月っていうパッケージが好きなんだって、気づいた途端に
どうでも良くなった。みんな自分の綺麗な夢だけを詰め込んだ宝箱を求めているの」
「悠月だって、自分より他の女の子が褒められたら、カチンとくるし、男の裸を見たらドギマギしたりもする。」
「そう。おならだってするの」
七瀬悠月のパッケージとは、七瀬が演じている七瀬悠月のことだろう。
そして、それは本当の七瀬ではないため、七瀬からしてみたら他人のことを好きな人でしかないのだろう。
だからこそ、自分を見てくれない相手をどうでもいいと思ったとも読み取れる。
「自分の綺麗な夢だけを詰め込んだ宝箱」とは、その人が想像する完璧な相手のことであり、いつも完璧を演じている七瀬悠月のことでもあるのではないだろうか。
それを聞いた千歳は、本当の七瀬は、演じている七瀬悠月ではなく、ただの女の子であることを強調したのだろう。
「俺はわりかし好きだと思える子いたかもな。」
「小学生の頃、夏休みになると母方のばあちゃんの家に行ってたんだよ。
俺にとっては夏の原風景みたいなところだった。そこでさ、毎年ひょこっと現れる、近所の女の子がいたんだ。
人形みたいに整った顔立ちで、ちょこまか跡をついてきてさ、真っ白なワンピースを革でドロだらけにして、大泣きしてたりすんの
だけど、いっつも自由で羨ましいなって言ってくれたのを覚えてるんだよな
そんなことを言うのはあいつだけでさ、なんか嬉しかったんだ。
だけどある年から、パタリと姿を見せなくなった。
それが、俺の小さな初恋と失恋だ。」
「そっか、唯一の醒めなかった幻影なんだね。」
このシーンでは千歳の過去を知ることができた。
そして、千歳に昔好きな人がいたことが判明する。
まず、「原風景」とは、幼少期の頃などに形成された個人の美意識や価値観に大きく影響を与えた風景のことだ。
つまり、千歳にとって夏といえば、母方のばあちゃんの家がある地域だったのだろう。
そしてそこに、ひょこっと現れる近所の女の子。
もしかしたら、その女の子も千歳の原風景の一部だったのかもしれないと考えた。
千歳は「自由で羨ましい」という言葉が嬉しかったらしい。
そして、そのようなことを言うのはその女の子しかいなかった。
なぜ千歳はその言葉が嬉しかったのだろうか。
なぜその女の子はその言葉を言ったのだろうか。
千歳の初恋についての考察
ここからは根拠の薄い考察になるが、
小学生の頃の千歳の、内面の部分を考察していく。
千歳は、小学生の頃から普段の自分を偽っており、その女の子に会う時だけ、本当の自分になっていたのではないだろうか。
だからこそ、「自由で羨ましい」と言うのはその女の子だけであり、昔の千歳は本当の自分を見てもらえたような気がして、嬉しかったのではないだろうか。
また、女の子が「自由で羨ましい」と言ったのを、裏を返せば「自分は不自由」と言うことだ。
例えば、千歳とは逆で、本当は自分勝手に行動したいけれど他人に気を使いすぎてしまう生活だった場合、親に気を使いまた千歳に会いにいきたいといえない状況になってもおかしくない。
だからこそ、何も言わずに「ある年から、パタリと姿を見せなくなった」のかもしれない。
また、七瀬の「そっか、唯一の醒めなかった幻影なんだね。」と言う言葉の意味がよくわからない。
幻影とは幻のことだ。
つまりその女の子が、千歳の覚めなかった幻ということになる。
これも根拠の薄い考察だが、
千歳や七瀬は達観し過ぎたあまり、人の行動の裏にある醜い感情を見たり、人のことを情報として処理して、当たり障りのない言動を取り、その場の空気を優先して考えたりする。
それは、自分の感情や直感、何も考えないでとっている純粋な本人の行動ではない。
しかし、昔は違っているため、昔にあった人や、とった行動は、純粋な本人の思った印象のまま記憶している。
そのため、達観した2人が、他人に対して裏の感情を考えたり、その場の空気や未来のことを考えないで、感情を優先してみることができる相手のことを幻影と表現している。
「醒めなかった幻影」とは、達観した後も、過去の出来事を思い出して、当時とは違った見方をしていないということではないだろうか。
逆にいえば、「醒めた幻影」とは、達観したからこそ、幼かった頃の「あの人が言っていたことは、本当はこういう意味だったんだろうな〜」という、当時とは違ったものの見方をしてしまった思い出のことではないだろうか。
「朔はこれから、誰かを好きになれると思う?
私は怖いな、自分がそうされてきたように、勝手に誰かを好きになって、勝手に嫌いになっちゃくことが。
おやすみなさい、朔」
「おやすみなさい、悠月」
このセリフで、七瀬は今、自分が千歳に恋をしているということに、本当は気がついているのではないかと思った。
しかし、七瀬が好きなのは千歳のパッケージであり、七瀬が昔どうでもいいと感じた相手と同じになってしまうというのが怖いため、その感情に名前をつけないままにしているのではないかと考えた。
実際に、七瀬は素の千歳というものを、そこまで見たことがないのではないだろうか。
私の考察基準だと、七瀬が素の千歳を見たのは、祭りの時と、今回の千歳が七瀬に感謝をしていた時くらいだ。
(もしもこの世界に、本物の恋なんてものが存在するとしたら、きっと薄れかけた思い出の中でしか、見つけられないんじゃないだろうか
それな例えば、大人になってからふと、この夜を懐かしく思い出すように)
これはどういう意味なのだろうか。
私は、「大切なものは、失って初めて気づく」という意味や、「思い出補正」という意味に聞こえた。
また、薄れかけた思い出の中でも、ずっと印象に残っているものこそが、本当の恋だという意味なのではないかとも考えた。
翌朝、登校時
目が覚めた時、七瀬はもういなかった。
そのまま登校する千歳だったが首元に「ねがおごち」と書いてあることに、内田が気が付く。
「朔君は、誰にでもそういうことをするのかな?」
「勘弁しろよ。初めてを捧げた相手は一人だ。」
「どうだかね」(満足げな顔)
このシーンの意図は、現時点ではまだ読み切れなかった。
千歳の言う、初めてを捧げた相手とは誰なのだろうか。
反応を見るに、内田なのだろうか。
初めてとは、何の初めてを意味しているのだろうか。
「ねがおごち」という文字があったことから考えるに、初めて添い寝した人や、初めて千歳の家にあげた人とかだろうか。
情報が少なく、考察はできないが、今後このシーンの意味がわかることがありそうだ。
豊島分店 ヨーロッパ軒にて
「え〜。朔と行動するのをやめる!?
昨日もヤン高の人きてたのに!」
「私が問題を大きくしていたところもあるのかなって
最初からちゃんと断ってれば、済んだ話なんじゃないかってさ」
このシーンでは、七瀬が問題を大きくしてしまっていた可能性について触れられていた。
これを聞いて私は、七瀬の制汗剤が盗まれた事件を思い出した。
無意識にあれを、ストーカーと繋げて考えてしまっていたが、
七瀬が千歳と付き合っていると聞いて、女子生徒が嫌がらせをしただけで、ストーカーとは関係がない可能性も十分ある。
そうなれば、ストーカーなら狙うであろう、タオルや制服が盗まれなかった理由にも納得がいく。
成瀬とファミレスで
スマホを机の上に置く千歳
「前置きは無しだ。昨日、悠月を家に止めた。
もう、お前の恋愛相談には乗れない。」
コーヒーをこぼす成瀬。
「あーやっちゃったー(棒)」
コーヒーが千歳の前まで広がり、千歳の靴に垂れる。
成瀬は、ハンカチを取り出し、自分の前だけ拭く
このシーンでは、まだ確定はしていないものの、成瀬がストーカーの犯人であるように見えてしまう描写が多かった。
まず、元々手にスマホを持っていたわけでもないのに、机の上にスマホを置いた千歳に違和感を覚えた。
もちろん、全く意味のないカットの可能性もあるが、
もしかしたら千歳はこの会話を録音しているのではないかとも思った。
しかし、この会話が今後役に立つとは思えないとも思った。
また、コーヒーをこぼしてしまった成瀬の行動にも違和感を覚えた。
きっと動揺してコーヒーをこぼしてしまったのだろうが、千歳の前までコーヒーが溢れていったのにも関わらず、拭いたのは自分の前だけだった。
もちろん、それだけ動揺していたという可能性もあるが、
成瀬が本当は自分のことしか考えていない、自己中心的な性格をしているということが示唆されているとも汲み取れた。
「その・聞きにくいんだけど、そう言う関係になったってことでいいのかな」
「一線は越えてないぞ。だけどまぁ、盛り上がって普段とは違う格好を見せてもらったり、その写真撮らせてもらったり、まんざらでもなくなってな。」
「正式に付き合うってこと?」
「いや、彼氏のふりはやめる。」
困惑顔から、笑顔に戻り、
「ごめん、ちょっとよくわからないんだけど」
このシーンでは千歳のセリフに違和感を覚えた。
千歳の家のシーンで七瀬の写真を撮ったシーンや、まんざらでもなくなった雰囲気を出したシーンはないように感じた。
つまりこれは、千歳の嘘ということだろうか。
また、困惑顔から笑顔に戻った成瀬は、まんざらではなくなったことや彼氏のふりをやめることに困惑をしたが、一線は超えていないということに対して、安心していつもの笑顔の成瀬に戻ったのではないだろうか。
(これが目の前の男にできる、最後の助言であり、誠実な態度だと信じて、俺は悠月とのあれこれを詳細に説明した。)
ここでは、あれこれを詳細に説明したとは、どこまで話したのかが気になった。
ストーカーのことは話したのだろうか。
七瀬が泣いてしまい、家に上がらせたことを話したのだろうか。
七瀬が元気を取り戻した後の、イチャイチャの話をしたのだろうか。
「ふ〜ん。その話を聞くと、僕に勝ち目なんてないんじゃないかって気がするな。」
「そこで止まるのか、1歩踏み出すのかは、智也次第だな」
「今日までありがとう、朔。成長した気はしないけど。」
「ば〜か。それは成長する気がないからだ。いつになったら話しかけるつもりなんだよ。」
「もうちょっと確率を上げてから…」
「一生やってろ」
ここでの会話で、もし千歳が七瀬のことをストーカーの犯人だと思っているのだとしたら、
「そこで止まるのか、1歩踏み出すのかは、智也次第だな」というセリフは、
七瀬にアタックするのか、七瀬を諦めるのか。ではなく、
ストーカーをやめるか、一歩踏み出して更に新しいことを始めるのかという意味にも捉えられてしまうと考えた。
また、成瀬を疑い過ぎているからかもしれないが、
「一生やってろ」と言っている時の千歳の目が、
本気でうんざりしているような目をしているように感じた。
川ごしのベンチで明日風の進路相談
ここでは、いつもと逆で明日風の進路の話をしていた。
「明日姉、進路迷ってる?」
「君はさ、この小さな街を出てみたいって思ったこと、ある?」
「福井で生まれ育った人の半分が1度は想像して、半分は想像すらしていないことだろう」
「私はこの街が大好きで、大嫌い。
迷ってるよ。進路。
具体的に言えば、ここに残るか、東京に行くか」
「東京…」
(奇しくもそれは、俺がなんとなく抱いていた街の外と同じ場所であり、都会の象徴だった。
呆れるほどチープな幻想を、明日姉もまた抱いているのだと、俺は小さな幻滅と、小さな安堵を同時に覚え、
そんな自分に、ほとほと嫌気がさした。)
このシーンでは、やはり千歳が明日風を特別視していることが印象的だった。
自分と同じ場所を想像していて、
(俺は小さな幻滅と、小さな安堵を同時に覚え、そんな自分に、ほとほと嫌気がさした。)
と言っているのは、
憧れの人が自分と同じチープな幻想を、を抱いていたことに幻滅を覚え、
それでも、同じ場所を想像できたことに安堵を覚えた。
しかし、そんな矛盾している感情を持っている自分に嫌気がさしたのではないだろうか。
「そういえば、悠月の件は多分なんとかなると思う。」
「いつもみたいに、物語を聞かせてはくれないんだ。」
「いつか、聞かせたくても聞かせられない日が来るかもしれないから。
心の準備だよ。」
「随分と寂しいことを言うんだね。」
「随分と寂しい話を聞いたからさ。」
これは明日風が東京に行ってしまったら、もう会えないかもしれないということだろう。
「君も私も、こうやって大人になっていくのかもしれない。
麦わら帽子とワンピースを押し入れにしまって、パリッとしたスーツを取り出すの。」
「俺は、いつまでも短パンとビーサンを忘れたくないな」
「君には、それがよく似合うだろうね。」
「明日姉は!…きっと、アイロンをかけたスーツよりも、真っ白なワンピースが似合うよ」
このシーンでは、明日風が千歳の初恋の人ということが示唆された。
作中で明言はされていないが、そう解釈できるだけの描写は十分に揃っている。
麦わら帽子と白いワンピースというのは、千歳が小学生の頃に毎年会っていた女の子の特徴だ。
そしてその特徴を明日風から言い出したことや、そのお返しに自分の服装の特徴を千歳が言ったことからも、お互いにそのことに、気づいている。
また、千歳は「真っ白なワンピースが似合うよ」といい、明日風が東京に行ってほしくないというような言動を見せている。
また、「明日姉は!」と言っているときは、千歳らしくなく焦っているようにも見えた。
少し顔を歪ませて
「きっと。真っ白なワンピースが似合う私を、君は好きになれないと思うな。」
一体どういう意味なのだろうか。
千歳は過去に何かをやってしまったのだろうか。
それとも、「真っ白なワンピースが似合わない」つまり、「泥だらけのワンピースが似合う」という意味で、昔の川に落ちてしまうような明日風なら好きになれるが、今の完璧な明日風は好きになれないということだろうか。
どちらにせよ、この言葉の意味は今後の物語の中で分かるだろう。
まとめ
第9話では、七瀬の話の決着に続く、ターニングポイントのような回だった。
また、千歳の不可解な言動や、千歳の過去の話が印象に残った。
千歳の家でいつもの調子を取り戻した七瀬は、ストーカー相手に思考停止せず、自ら解決するように動き始めた。
千歳は偽の恋人関係をやめ、成瀬にそのことと、今後協力しないということを伝えた。
また、千歳は七瀬に初恋の話をした。
しかしその女の子は、明日風であるという描写が多く見られた。
第9話での千歳の不可解だった言動は、
内田に「ねがおごち」を見られた時、「初めてを捧げた相手は一人だ。」と言った。
成瀬と話す前にスマホを机に置く描写があった。
成瀬に七瀬のことがまんざらではなくなったと伝えた。
これらの意味深な言動の意味は今後判明するのだろうか。
次回は、第10話も考察していく。
▶ 千歳朔という人物を考える軸
・1〜5話の考察はこちら
感想
※ここからは、ただの個人的感想になります。
第9話を見て思ったことは、
・流れに流されない千歳ナイス
・千歳の言う「初めてを捧げた相手」とは誰か
・千歳は成瀬を疑っているのだろうか
・千歳が明日風に抱いている感情はなんなのだろう
ということだ。
まず、あの状況で七瀬に手を出してたら、千歳に幻滅していただろう。
そのため、七瀬に手を出すのではなく、本当の意味で七瀬を助けた千歳を見直した。
その後内田に言っていた「初めてを捧げた相手」と言う意味がわからず、
今回の話で、一番気になった謎だった。
また、千歳は成瀬にもう協力はできないと告げていたが、千歳が話していた内容に違和感が多く見られた。
そのため、千歳は成瀬のことを疑っているのか、だとしたら、どれくらい疑っているのかが気になった。
最後のシーンでは、
千歳は明日風に東京に行ってほしくないと言うような印象を受けた。
また、そのことを明日風に伝える時、千歳らしくない焦ったような、不安を感じているような顔をしているように見えた。
そのため、千歳は明日風にどのような感情を抱いているのかが気になった。



コメント